
コーポレートサイト制作に必要なイメージ写真の撮影を、ディレクションから携わることがあります。その中で「撮影にもディレクションが必要なんですね」と言われることがあります。映像や動画だけでなく、写真撮影にもディレクション業務は必須となります。そしてこの場合のディレクションは正確には『フォトディレクション』と呼ばれます。
普段あまり聴き慣れないかと思う『フォトディレクション』に関して紹介します。僕は普段、広告写真撮影の他に、Webサイト制作で使用する写真も多く撮影しているため、皆さんが解りやすくなるためにもこの『Webサイト制作』を例にして、実践していることを紹介します。少しでも皆さまのお役に立てればと思います。
Webサイトのコンテンツのひとつ「写真」
最初に、僕がWebサイト用に写真を撮影している理由についてです。無料で提供されている写真素材サイトを使用する方もいますが、オリジナルの写真を撮影することで世界観設計はもちろん、デザインや雰囲気、企業文化まで一貫したブランディングを行うことができます。つまり、デザインだけでなく、写真一つでも、統一感のあるオリジナルの『企業らしさ』を演出することができます。僕のようなディレクションも行う写真家が撮っているのは、綺麗なだけでなく『伝えたいことが伝わる』写真を撮っていることになります。
フォトディレクションとは?
撮影に関わる内容すべてを決めていくためのディレクションの事を「フォトディレクション」と言います。撮影するにあたってデザインや事業コンセプトに沿った写真の世界観を考え、見せたい情報やモチーフ、撮影の被写体を明確に決めます。Webサイトや広告物などに使用する写真撮影の場合は、そのデザインの統一感を損なわないか、デザイン物のコンセプトに即した写真にするにはどのような撮影法やアフターサポートが必要になるかを考えます。それら情報や撮影に関する資料作成なども行います。撮影当日は現場監督の役割も担います。

撮影当日までに行う内容
必要なカットを考える
Webサイトに必要なカットを整理します。デザイン内に必要なカットと、アイキャッチなどに用いるカットは最低限、抑えておきたいポイントになります。そして、引きと寄りの2パターンを撮影することも想定します。想定しておくことで、デザインの邪魔にならない構図が生まれやすくなります。
またカット数もあらかた決めておくと良いです。カット数は撮影計画や予算(時間)に影響を与えやすいため、アタリの写真を入れたデザインカンプを確認しながら、必要なカット数を決めていきます。
香盤表の作成
香盤表とは撮影のスケジュール表のことです。あまり耳慣れない方も多いかと思いますが、(写真)撮影の仕事場ではスケジュール表のことを、香盤表と呼んでいます。クライアントとも撮影可能な時間帯や場所の確保など相談して、香盤表を作り上げていきます。
香盤表には以下のような情報があると、コミュニケーションがスムーズに運びます。
日付・場所・時間(集合時間、終了時間)
撮影する順番
各カットの撮影時間(セッティングなどの時間も含める)
人物(モデル)撮影の場合はメイクも含んだ準備時間
使用目的(Webサイト用やパンフレット用など情報)
撮影するカットイメージ
また香盤表を作る際、下記のようなポイントで予備の日程を見込んでおくと安心です。
最初のカットは準備時間を考慮して多めに
撮影場所までの移動時間
屋外で天候に左右されるカットがある場合の代案
自然光が必要な場合、日の出・日の入時間を考慮する
撮影イメージのサンプル収集
意外と思われる方が多いことですが、サンプルを集めて撮影イメージをクライアントと事前共有します。集めるサンプルは、構図やシーンの説明ができるものはもちろん、写真のトーンについてわかる画像なども集めておくと仕上がりまでの工数を減らす結果へと繋がります。
手描きのラフ
さらに意外に思われることになりますが、手描きのラフを描くこともあります。サンプルだけになると、その写真(作品)にイメージを引っ張られすぎて、オリジナリティの低い写真となってしまいます。さらに、どこかで観たことあるような写真、あの写真とそっくり、なんてことを思われることになってしまいます。
撮影計画の共有
香盤表と撮影イメージリストを関係者へ共有し、フィードバックや変更箇所がないかを確認します。
香盤表をもとに撮影計画のすり合わせ
ロケハンの可否
撮影場所の予約(会議室など)
モデルさんの有無(イメージ撮影の場合)
撮影NGな場所があるかどうか
ロケハン
ロケハンとは、撮影現場の下見のことです。現場に行かないと分からないこと、現場の雰囲気、撮影が朝や夕方、夜などの場合の光の当たり方など、確認することは多岐になります。もし、撮影場所がクライアントの社内(屋内)である場合は、事前にクライアント自身でスマホでも良いので撮って頂くこともあります。
撮影当日の動き
撮影当日はトラブルなど予想外のことが発生することが多いです。そんな時もディレクターは焦らずに、現場を切り盛りすることが大切です。想定外のことが起きるもの、と思って望んだ方が撮影者自身も落ち着くが出てきます。特に意識して動く内容をご紹介します。
事前ミーティング
関係者が集まったら、最新の香盤表やイメージリストを配り当日の流れや動きを確認します。撮影にあたっての不明点や連絡事項をこのタイミングでしっかりと解消しておくことが大事です。また、撮影に協力してもらえる先方のスタッフさんがいる場合は内容をより念密に共有しておく必要があります。
テスト撮影
撮影前に、何度かテスト撮影を行います。光の当たり方のチェックとなります。逆光にならないか、照明が極端に明るすぎたり暗くなりすぎていないか確認します。必要に応じて調整する照度の最終チェックにもなります。さらにテスト撮影を行うことで、背景やテーブルの上に余計な物が写らないかも気づけます。何気なくテーブルに置かれた書類や壁に取り付けられた照明のスイッチは、写真の中で想像以上に目立ってしまいます。背景のホワイトボードや書類に、社外に出せない情報が写り込んでいないかも必ずチェックします。
撮影中
いざ撮影が始まっても、想定していたアングル/構成で問題ないか、もっと良いカットはないかなど自分の頭の中でイメージしながら撮影することが多いです。僕一人でなく、他のカメラマンさんもいる場合、モデルさんにポージングや表情の作り方など、指示を出すこともあります。
雰囲気づくり
撮影に慣れていない素人さんの場合は、カメラの前で自然な表情を作ることが難しいです。できるだけリラックスできる環境を作る必要はあります。モデルさんへの話しかけなど、現場の雰囲気づくりに注力することも大事なポイントになります。

撮影後の写真作り
編集/補正
無事に撮影が終わったら、写真の編集/補正を行います。専用のソフトを使って、写真の明るさやホワイトバランスをチェックして、使用できるように編集/補正をしていきます。不要なものの写り込み、写真の角度も確認して、編集や修正を加えます。Webデザインに挿入した時の色味の加減はもちろん、デザインと統一感が同様であるかを意識しながら編集と補正を行います。
そして、人を撮影した際に必ず気をつけたいのが写真写り。ピントや明るさの設定が完璧な場合でも、対象者の表情が暗い写真は、僕は掲載を避けています。ここが「綺麗な(だけの)写真」と「伝わる写真」の大きな違いだと思っています。被写体の方やお客様、さらには見てくれた人が喜んで共有したくなるような写真を撮って、選ぶことが大切です。
Lightroom ClassicとPhotoshop
僕が使用している写真の編集ソフトはLightroom ClassicとPhotoshopです。Lightroom Classicで大まかな補正と細かい補正、Photoshopで詳細な編集を行なっています。
デザインへの挿入
Webデザインに写真を挿入する際、同じ構図の写真が続かないようにします。引きの写真と寄りの写真を交互に、正面の後は側面の写真、といったように変化をつけることで、読者を飽きさせない効果を得ることができます。また、明確な意図がない限り文章と写真のバランス(情報量)を一定に保つようにします。バランスを保つことによって、読みやすく見やすいデザインにすることができます。
表情と視線
人を撮影した場合、僕が構図と同様、時にはそれ以上に大切にしていることが、モデルさんの表情と視線です。記事の内容に即した表情を選んで、写真と文章がちぐはぐにならないようにしています。楽しい思い出の記事には笑っている表情、努力したことを振り返っている記事には真剣な表情、といったように選んでいます。そして視線も重要です。視線の先に余白があると未来を見据えている印象、目線(顔や頭)の後ろに余白があると過去を振り返っている(考えている)印象を与えることができます。
さいごに
撮影は限られた時間の中で結果を出さなければならない仕事です。そのため、撮影当日までには事前準備が非常に重要になります。お客様やモデルさんとの意識合わせをしっかりと行うことで、当日の撮影がスムーズになります。また、Webデザインに挿入した時の見せ方やイメージを事前共有しておくことで、関係者全員の目的意識も統一されやすくなります。自分一人で撮影するといった感覚ではなく、関係者全員で1チームとなって撮影するような感覚を持つことが大切です。
そして最後に、僕(個人)が最も大切にしていることがあります。それは、
“撮影を楽しむ”
ということです。これが写真家にとって一番大切なことだと思っています。
今回の記事がこれから「フォトディレクション」を考えている方に、参考になれば嬉しいです。また、きちんと伝わる写真でブランド価値や企業イメージをアップしていきたい方はぜひ、ご相談ください。
今回も最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
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